『詩の音色』

2005年2月版『想來01』より。


 陽が落ちるのが早くなった。
 頬をなでる風も涼しいから寒いに変わり始めるこの頃、用が済めばとっとと帰りたくなるのが普通だろう。
 ましてや、受験を控えた三年生が好んで残ろうなんて思うはずもない。
「これで終わり、だな」
 俺は空になったじょうろを置いて、温室を見渡した。季節を無視して多種多様な植物がひしめくそこは、狭い割に奇妙な「深さ」があるところだった。
 学校の中庭にどうしてこんなものがあるのか。
 疑問は尽きないが、お陰で環境委員というそのものずばりな委員会は仕事に困らない。
 これを好きでやれる奴はいいよな。好きでやっているわけじゃない俺は、放課後になる瞬間までこの水まき仕事を忘れていたくらいだ。結果、どうなったかというと。
『おにーちゃん、それってあまりも無責任だよっ!』
 みまなの機嫌をそこねて、あとで埋め合わせをする羽目になってしまった。
 音研こと音楽研究部の後輩にして、高校で再会した幼馴染。自称妹分の七里みまなは、止めろと言うのにその呼び方をあらためない。
 ……無責任、か。
 両脇をリボンで結った髪を揺らしながら、ぷりぷり怒る姿を思い出してため息をつく。この場合の責任というのは、委員会に対してではなく自分に対してのことだから。
「まあ、別にいいけどな」
 温室の扉を閉める。
「どうせ明日には機嫌直してるだろうし」

 昔のみまなは、今とは少し違っていた。強い自己主張する方出はなかったし、いつも猫のぬいぐるみを抱えていて、友達と遊んでいる姿も見たことない気がする。そのくせ、なぜか俺には懐いていて、いつも後をついて来たがった。
 暢気な母さんは『かりてきた猫みたい。うちの息子は将来有望かしら』などとピントのはずれた事を言った。陰気な父さんは、珍しく楽しそうに微笑んでいた。
   鬱陶しいな。と子ども心に思っていたけれど、それでも強行に追い払わなかったのは、本心ではそれほど嫌じゃなかったからだ。
 みまなは舌っ足らずな声で、俺のことを「おにーちゃん」と呼んだ。一人っ子だった自分にはそれが新鮮でもあり、遊び相手が必ずいるという状況に満足していたのかもしれない。
 それが三つか五つ頃の話で、幼稚園のお遊戯でじゃりたれの俺のぽっぺにキスをしたのもみまなだった。全員強制だったあの行事……。考案した人間は、一体何を思っていたのだろう。
 そして小学三年の時に、俺の家は引っ越して、同じ県内にいながら、俺たちは二度と会うことはなかった。手紙のやり取りもしなかった。親同士はあったようだけど、そんな事、子どもには関係ないだろう?
 その後、俺は中学生になり、高校生になって、もはやなにもないと思いかけていた高二の春、みまなと再会した。
 かりてきた猫は、茶目っ気たっぷりのドラ猫になっていた。
 変わらないのは、俺につきまとう事。やることなすこと。ガキっぽい事。
 変わったのは、むしろそれからの俺の方で。女子との縁が急速に失われた事だった。そりゃそうだ。いくら俺が邪険にしてもみまなはめげないし、たぶんあいつもそういう気持ちで、寄ってきている訳じゃないのかもしれない。
 最初のうちは見せ物状態だったけど、部活でバンドを組むようになってからは、見られる目は変わった。俺たちのバンドに、ひときわ目立つボーカルの先輩がいたからだ。
 俺たち『兄妹』はちょうど良い添え物だった。
 そして俺たちは、その場所が気に入ってしまったのだった。

 そもそも、二人とも高校デビューで真っ先にはまったのが、その先輩と音楽だったのだ。できるだけこの人と一緒に音楽やっていたい。
 結果、俺はその人が卒業するまでZephyr(ゼファー)にはまった。もちろん、一般的な高校生である俺には、やらなければいけないこともあったし、進路は進路で別に考えなければならなかったから、一色に染まっていたわけではないと思うけど。俺の中の高校生活は、Zephyr一色だった。
 Zephyrは、あの人がいてこそのバンドだったから、あの人の代が卒業すると同時に解散する。その頃には、俺も立派なジャンキーになっていたから、ギターを手放す事はなかったが、なんとなく気が抜けてしまう。
 あたらしいバンドを組んでみた。みまなもいた。みんな良い味だしていた。うん、これは良い感じだ。といことで、俺は最後の高校生ライフを楽しんでいる……と思っていた。
 けれど、春が過ぎ夏が過ぎ秋が来て、毎日がどんどん味気なくなっていく気がしていた。
 何気なく校舎を見上げると、赤く染まった鉄筋コンクリートの壁はひどく寂しい感じがした。
 なんなんだろう、最近こんな気分になる。
 受験が近づくにつれて、色々なものが削られていくような気がしていた。もちろん考えて判断しているのは俺だけど、そこには何か大きな力が働いているようで。
 なにもかも必要と不要とに分けて、不要なものをばさりと切り捨てるように。
 たとえば、音研の活動も……。
 ばさり。
「……なに、考えてんだかな」
 くだらない妄想をしている自分がおかしくなる。そんなの誰だって同じ……。
 そこまで考えたとき、教室に忘れ物をしたことに気が付いた。

               * * *

 三年の廊下はただ静かで、寒々しい空気の中で足音がやけに響く。並ぶ教室は化石のように静かだった。
 一人きり……。
 ところが、放課後の教室には先客がいた。
 彼女はまるで呻き声でも上げそうな顔で、睨むように窓の外を見ていた。細い指はセミロングの髪に差し込まれ、手の平は肌色の拘束具になって形の良い頬を隠している。
 俺は声を掛けようかどうしようかと迷い、指の隙間からのぞく白い瞳に捕まった。
 夕焼け色に染まる教室。
 腐敗の色をした黒板。
 なんど呼吸を繰り返しても味のしない空気。
 不格好に垂れ下がるカーテン。
 静止した外の風景。
 その窓際、一つだけ埋まった席に、彼女。
 戸口に立つ俺は、その冷めきった白く濁った光に射すくめられている。口に無理矢理指を突っ込まれて、そこから流れ出した粘液質の何かに胸の中を侵されるような不快感。  気持ち悪い。
 正直に、そう思った。
 あれはまるで、
「なにやってんの?」
 死んだ魚の目。
「え」
 俺は驚いた。いや、死んだ魚が口をきけば誰だって驚くだろう。そのはずだ。
「なにやってんの? んなとこ……、ぼっとつっ立ってさ」
 少し鼻に掛かったハスキーボイスは、意外と明瞭に届いた。不快じゃない濁り。たとえばラジオのむこうから聞こえる声。──おそらく、本当はかなり良い声なのだろう。
「入ればー? 用、あるんでしょ?」
 彼女の目が笑う。
 俺は呪縛から解き放たれる。
「あ……、だな」
 気の抜けた返事を返して、俺は教室の中に入った。それで教室に暗い影を落としていた気配は途切れたらしい。何事もなく自分の席まで辿り着く。
 現国のノートはあっさりと見付かった。
 俺は引き出しに教科書を入れっぱなしにする趣味はないので、中身は比較的すかすかなのだ。掃除の時は軽くて良いとちまたで評判だろう。
 さて、もう一つの用だ。相手次第だが、あの様子では面倒そうな気がする。
 教室の鍵閉め。
 ここに来る途中、担任に捕まって「教室に行くならお願い」と鍵を預けられたのだ。そんなこと良いのかと思うが、リベラルな気風がモットーらしい弥芳原ならではのものかもしれない。
 弥芳原《みよしはら》温泉とはよく言ったもので。
「恵庭《えにわ》くん」
 呼ばれて振り返ると、彼女はこっちを見ていた。
 手を重ねて作った橋に頬杖をついて、何が楽しいんだか垂れ気味の目を三日月型にして、俺の返事を待つようにこっちを見ていた。
「なに? ……」
「稷島清花《きびしまさやか》」
「そう、稷島。あ、」
 口を押さえたが遅い。 
 彼女の目に映る俺の顔には、『名前をど忘れしてました』と大書きしてあるに違いない。
 逃げ道は充分にあったのに、これでは完璧な自爆。
「く、くく……ひっかかりすぎよ、それ」
 はめることが出来て嬉しいのか、彼女は吹き出した。ラジオのまき散らすノイズ。それでフィルターを掛けた少女の笑い声。
 それにしても……。
「くく……くくくく、ひっかかりすぎ」
 笑いすぎだ。
 しまいには手の橋に顔をつっぷし痙攣までして見せるので、さすがに少しむかついた。
「なんだよ、意地が悪いな。……笑ってないでとっとと帰り支度してくれよ。ここ、閉めるから」
 気持ち追い立てるように、持っていた鞄を音を立てて机に置いた。中に詰まった教科書やノートの重奏が響く。
 笑い声が止まった。
「……閉めるって? どして、恵庭くんが?」
「途中で、木下先生に会って頼まれたんだよ。行くならついでに閉めてきてくれとさ」 「ふーん、木下に……ね」
 どことなくだるそうに稷島は言う。
 俺はどんないけすかない教師でも敬称は付ける。で、それができない奴は莫迦だと思っている。
 逆立ちしたって向こうが大人という事実は変わらないわけだし、目上に敬称付けるなんてのは普通のことだ。そういう小賢しさはダサイだけだ。しかし。
「──」
 俺は思わず吐息で笑った。稷島のそれは、不思議にはまっていたからだ。
「なぁに、笑ってんの?」
「なんでも。それより、出てくれよ」
「あー、急ぎならあたしが閉めとこっか?」
「別に急いでないが……。俺が鍵返しに行かないと後できっと面倒なことになるから言ってるだけだよ」
 すると、稷島はなるほどと笑った。細くカールした毛先をいじりながら「木下……几帳面だからなぁ」とつぶやく。
 およそ可愛げはない。
「よいしょ、」
 しかし、好意と興味は湧いてくる。投げっぱなしな言葉やおおざっぱな態度は不快じゃなかった。
「しゃあない、かぁ……」
 けだるそうに腰を上げると、ルーズに結んだ胸元のリボンが垂れる。夕陽を照り返して、首の白さが目に痛い一瞬。
 俺を不快にさせた死んだ魚の目。
 あの面影は見出せない。
 いいじゃないか?
 いいだろ、それで。
 稷島に見られないように苦笑して俺は、
「じゃ、荷物まとめたら……」
「条件」
「はぁ?」
 彼女は机の上に座って、ノリの良さを試すような目で俺を見ていた。右足は机の縁に掛けられていて、まくれ上がったスカートの奥が赤い光にさらされ──。
 俺は目を逸らした。
「条件って……なに言ってんだよ?」
「あたしの注文に答えて。あー、簡単なことだから」
「……」
「あのさ、今日の現国の授業憶えてる?」
「ああ」
 なんだノートでも貸せと言うのか。それは容易いことだが安くはないぞ。
「そのとき……恵庭くん、朗読やったじゃない」
「詩の?」
「そう、先生が……黒板に書いたやつ」
 それならノートを取ってある。問題なく見せられる。俺はこれでも字が綺麗らしいので貸しのレートは高めだ。
 しかし、そんな風に用意した言葉が使われることはなかった。稷島清花は言うに事欠いてこんなことを口走ったからだ。
「あれ読んで」
「はぁ?」
 新手の嫌がらせかと思った。だから俺は露骨に顔をしかめたのだが、
「だから、……あの詩をもう一度、読んで欲しいの」
 彼女の表情を見て変わった。
 どことなく気がゆるんでいた瞳は物憂げに細められ、夕陽の中でも赤く指の跡が残る頬はわずかに張っている。
 本当に願う顔をしていた。
「どうしてそんなことを?」
 だから俺はそれだけを訊いた。
 稷島はたぶん照れを隠すために目を伏せ、
「……、貴方の声が読む詩の音が綺麗だったから、かな」
 流れ込んできた風に、稷島のセミロングの髪が、例の細くカールしたところがなびく。
 いままで教室と同化していた夕焼け色の空気が動き出す。俺ははじめて窓が開いていたことに気が付いた。
「……わかったよ」
 俺の声のどこが良いのかなんて、当然俺にはわからない。同時に、稷島が俺に対してどんな感情を持っていたかなんて、俺にはわからない。
 これまで特に注意を払っていなかった。
 思い出してみれば確かにノリの良いやつだった気がする。そういえば前に話した印象も悪くない。
 その程度。
 その程度だけど、なんだか詮索したり反論したりするのが面倒になって、この変な申し出に乗ってやろうと思った。無理に追い出すよりはるかに楽だろう。
「それじゃ、これ」
「ん?」
 持っていたノートを開こうとしたところに、ルーズリーフを渡される。裏は白紙。表には件の詩が書いてあった。
「それ、使って」
 ノートあるから、とは答えなかった。一枚きりのルーズリーフの方が楽ということもあったが、水を差すような気がしたからだ。
「あ、その前に一つ条件がある」
「恵庭くんも、条件?」
 ころりと表情を変えて聞き返す稷島清花に、俺はなるたけ平坦な声を出す努力をする。
「机に座るのは良いが、脚は下ろせ」
 逸らしていた目を戻したので、夕日の赤の中でも映えるなだらかな薄紅色が、いけないくらいに目の毒だった。
「はあい。確かに聞く態度じゃないものね」
 稷島は脚を下ろすばかりか、机から降りてちゃんとその場に立った。手は後ろで軽く組んでいるようだ。
「……」
 口元に浮かんだ笑みを見たとき、見破られたなと思った。それを誤魔化すために、気持ち大げさにルーズリーフのしわを伸ばし、小さく息を吸ってから口を開いた。

  春はどこまできたか
  春はそこまできて桜の匂いをかぐわせた
  子供たちのさけびは野に山に
  はるやま見れば白い浮雲がながれている。
  そうして私の心はなみだをおぼえる
  いつもおとなしくひとりで遊んでいる私のこころだ。
  この心はさびしい
  この心はわかき少年の昔より私のいのちに日影をおとした
  しだいにおほきくなる孤独の日かげ
  おそろしい憂鬱の日かげはひろがる。
  いま室内にひとりで坐って
  暮れてゆくたましいの日かげをみつめる
  そのためいきはさびしくして
  とどまる蠅のように力がない。
  しずかに暮れてゆく春の日の夕日の中を
  私のいのちは力なくさまよいあるき
  私のいのちは窓の硝子にとどまりて
  たよりなき子供等のすすりなく唱歌をきいた──

「──武丸《たけまる》」
 読み終わる瞬間名前を呼ばれ、顔を上げると稷島はいつの間にか目の前にいた。
「え、」
 動揺する俺に、
 ──ルーズリーフが宙を舞う。
「……、────、」
 聞こえない声が何かを言い、距離がゼロになり、
 ──宙の紙片は落ちることかなわず二人の身体に挟まれる。
 唇が塞がれた。
「───ん?」
 驚く。
 それしかなく、身体を離そうと腕を上げるが動かなかった。
 制服の布と一枚の紙を介して伝わってくる、あたたかさ、やわらかさ、つよさ、鼓動、弾力。
 唇を押しつけ、抱きついている稷島清花。
 肩の下。しっかり背中に回された腕の力は、その細さがこんなにもわかるくせに、信じられないくらい強かった。
「……ふ──ぅ、ん、」
 漏れる吐息、声は彼女。
「───っ、」
 さらに強められた腕に俺はうめき、身をよじるが抜け出せない。もしすると、俺の力が弱まったのかもしれない。ただ、
 ───離さない。
 込められた力はそう言っているような気がした。いや、それよりも今は、
「あ、」
「ん──……」
 ──舌が侵入して来た。
 頭の中が白く染まる。目に映る彼女の顔がにじんで、まぶたの震える伏せた瞳がぼやけていってしまう。
 キスははじめてじゃない。浅いのも深いのもとうの昔に知っている。けれど、二人を照らす夕日が、その赤の中でもなお稷島の頬に残る紅い筋が、
 ぷっくりとした頬に走るまるで爪痕が俺の視神経から麻薬のように全身を侵していく。
 とっさに逃がした俺の舌を求めて、彼女の舌が淋しげに左へ右へと動きなんとか奥へ───踊りの相手の元へと手を伸ばす。
「ん、ぁ……ふ」
 息を継ぐために、開いたわずかの隙間。唇の間に感じる唾液の感触に、俺は離れる機会を永遠に見逃す。
 落ちた。
 弛緩していた腕を意外に骨張った彼女の背中に回し、巣穴から飛び出す蛇のように舌を衝き出していた。
 駆けめぐる熱。
 くしゃりと、挟まれた紙が二人の腹の上で悲鳴を上げるたびに、彼女は互いの身体をもっと密着させようと身をよじった。
 制服ごしでも清花の胸は、ふくよかな張りを感じる。
 下腹部に空間を作って紙を落とそうとしたが、清花はそんな言い訳を見破り、むしろその場所を積極的に押しつけてきた。
 二人が最も密着している中で、二つの紅いイキモノはうねり、輪舞を踊る。
 暮れ差しの赤い光の中で、思考を失って抱き締め合った。
 抱き締め合っていた。
 …………なぜ。
 それは理性の反照。
「……は、ぁ」
 いつしか、どちらからともなく唇を離し熱っぽい息を吐いていた。強ばってしまった腕を解いて身体を放していく。
「……稷島」
 整理が着かないまま掛けた声に、彼女は冷水を浴びせられたように身震いをした。  そしてそれを取り繕う間さえなく。

「ごめん、……なさい」

 あまりにも儚い声が届いた。
 ちいさな子どものように身を震わせて「ごめんなさい」と幽かに繰り返し、声もなくぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「ごめんなさい、でも………、」
 稷島は泣いていた。
 ぶっきらぼうな態度。投げやりな口ぶり。けだるいまなざし、少し鼻に掛かったハスキーボイス。机の上に乗せた片足。不思議な親しみやすさ。
 どれからも予想できやしない。
 どれとも繋がりようのない。
「………ありがとう。恵庭くん」
 女の子が、そこにいた。

               * * *

 次の日、稷島は何事もなかったように登校してきていた。意識していたのはむしろ俺の方で、教室ですれ違ったときなど思わず硬直してしまったほどだ。
 また次の日は、混み合った学食で彼女とその友達らしい女子が近くに座ったとき、箸使いを三度も誤った。
「なぁ、稷島に弱みでも握られているのか?」
 ついには、友人の中村にそんなことを言われてしまった。
「いや、別に……」
 俺は適当に流したが、ある意味そんなものかもしれないとも思っていた。
 彼女はまるっきりいつもどおりだった。
 しかし、本当にいつもどおりだったかというと、かなり自信がない。そもそも俺たちは、これまで大した接触を持っていなかったからだ。

 ──あの日。
 夕焼けの教室を閉じて、言葉はなく一緒に昇降口まで行った。バス停に向かう俺と駅へ向かう彼女は、そこで帰り道が別れる。
 長い下り坂を下りれば十字路。
 別れしな、あの深すぎるキスのことをもう一度謝られた。
 稷島の言葉を借りるなら。
『詩の音色に引き込まれるみたいに、なんかわかんなくなって意識が暴走してた』
 理由はそうなのだそうだ。
 その人にとって麻薬のように「気持ちの良い音」というものがあって、それが時々人の声だったりする。
 そんな話をどこかで聞いたことがあったので、それを言うと稷島は眠たげな半眼で口を少し尖らせ、
「半可通が知ったようなこと言わない方が……いいわよ?」
 と笑った。
 そして俺たちは別れた。
 予想していた「忘れて」という言葉はなかった。

 それから数日の間。
 少し注意して見ると、稷島は明るい性格の割に人との接触が稀薄なところがあった。なんとなく、周囲に人が集まらないのだ。もしくは、集まるところに行かない。群れない。
 ともかく、「忘れて」と言わなかった稷島は、あれは無かったとでも言うように、平然と学校生活を過ごしている。
 ただ、前より幾らかは距離が無くなった気はする。会えば挨拶したり軽く言葉を交わす程度。
 その程度……。
「──てばっ」
「………」
「おにーちゃんってば!」
「! なんだ? どうしたよ、いきなり大声出して」
 目の前にむっすーと膨れたみまなの顔があった。
「ん、もうっ! なにが「いきなり」なの? 私、さっきからずっと呼んでたもん」
「そうか?」
「そーう! ん、もうっ、この頃のおにーちゃんなんかヘン。久しぶりにDD付き合ってくれると思ったらこれだし」
 行儀悪くストローをくわえて、みまなはファーストフードの店内に視線をそらした。初動を失敗したために、完全に拗ねられてしまったようだった。
「わるいな。でも、この時期の受験生なんてそんなもんだよ」
「え!? じゃぁ……受験疲れとか、なの?」
 取り繕うかわりにそんなことを言うと、みまなはびっくりしたように振り向いた。
「まぁ、そんなところなのかな」
 俺の曖昧な答えにみるみる表情が曇っていく。
「そうだったんだ……。おにーちゃん、すっごくマイペースだからそういうの無いと思ってた」
 うつむいて上目遣い。怒られることにというより、無神経な振る舞いに呆れられてないかと恐れているような仕草。
「──ごめんね」
 こういう瞬間、俺はこの娘をたまらなく可愛く感じる。わがままかと思えば素直なところとか。
「いや、ありがとな」
 俺は食べかすで汚れていない方の手でみまなを撫でた。こういう子ども扱いは普段嫌っているのだが、今日はごく自然に行われていた。
 みまなはどこか安心したように瞳を細める。
 ……俺が気にしても仕方ないか。
 あの放課後が過去のことになり、普通に稷島と接することが出来るようになった頃。
 その頃、彼女は学校を休みがちになっていた。

               * * *

 秋がすっかり深まった。
 うちの学校は変なところで融通が利かない。委員長などの役職は代替わりしているのに、当番表は二学期が終わるまで修正されることはないのだ。仕方なく俺はその通りに行く。
「あれ……どしたの」
 そうしたら、そこには稷島がいた。
「委員会の当番。そっちは?」 鞄とじょうろを持ち替えつつ俺は答えた。
「…………なんとなく?」
「──俺に聞くなよ」
 苦笑を返すと彼女もからからと笑った。
 外はそろそろコートが欲しくなってくる寒さだったが、温室の中は相変わらず暖気がこもっていた。
 教室の三分の一にも満たない温室。俺が『徳用』と書いてありそうなじょうろ二個分の水をまいている間、稷島は隅の方で花を見つめていた。
 花の名前はわからない。
 黄色い花で葉が細い。
 それを見つめるけだるげな視線。
 まるで眩しいものでも見るかのように細められて、少し疲れたような目をしている。
 透明な天井から降ってくる赤い夕焼け。
 しゃがんでいる稷島の姿は、どこか頼りなげに見えて淋しい。
 そんな姿に妙な不安を感じた。
 風景がゆがんで、ばさりと切り捨てるように失われてしまうような不安。
 ばさり。
「………」
 不意にみまなに会いたいと思った。
 稷島を前にしてそういうことを思うのはアレな気もするけれど、あの娘の明るさはときどき俺を安心させるから。こんな不安なんて……。
「なに、考えてんだか」
 誰にも聞こえないようにつぶやくと、そんな考えに至った自分がおかしくなってくる。それは、稷島のことを変に意識しなくなった証拠だった。
 横目で様子を窺うと彼女はまだあの花の前にいた。陽が落ちるのが早い。逆光で表情が見えない。
「……いいか?」
「ん」
 軽く声を掛けてどいてもらうと、黄色い花に水をまいた。茶色い土に水が染み込んでいく。
 すぐ脇のプレートを見たが、他の花と同じようにアルファベットと数字が書いてあるだけで肝心の名前が書いていなかった。
「恵庭くん」
 背後にいる稷島が声を掛けてきた。
「んー」
 俺は手を休めずに生返事をした。周辺の草花にもじょうろを向けて、根本の土に水を馴染ませていく。
「この花……なんていうか、知ってる?」
「え、これか?」
 視線だけ向けて尋ねる。あの黄色い花だ。
「そうそ、それ。その黄色いの」
「……いや、わかんね」
 一応、記憶を探ってみたが徒労だった。
「えー、環境委員なのに?」
「それは関係ないだろう」
「えー、そんなもん?」
「そんなもん」
 真似したつもりはないが、俺も間延びした声になっていた。もっとも、稷島のそれは間延びしたという感じでは無いのだが。
「でも、水はまくのね?」
 なんというか、基準線からずれた感じ。だから最初、ラジオのむこうから聞こえてくるなんて思ったのかもしれない。
 それでいて、不思議と通りのいいハスキーボイス。
「揚げ足取るなよ」
「へへへ、ゴメンゴメン」
「……ったく」
 俺は呆れつつも特に気にしてなかった。
 こういうタイプはちょっといない。けだるげではあるけれど、莫迦っぽさは無いのだ。不快に感じないのはそのせいかもしれなかった。
「ん、じゃあ……お詫びに良いこと教えてあげる」
 もったいぶるように稷島は言った。
 俺は目だけでうなずいて先を待った。
 一歩、二歩とこっちの方……花壇の方に歩み寄って来る彼女に、知らず俺は身を固くする。
 稷島は直前で足を止めた。
「グラジオラス」
 明瞭な声だった。
「え?」
「その花の名前。黄色い花弁、剣のような葉に由来してその名前がついたの。──グラジオラスっていうのは、ラテン語で小さな剣という意味なのよ」
 彼女はどこか遠い目をしていた。笑みは消えている。視線に押されるようにして俺はその花を見た。
 たしかにその特徴通りの花だった。ただ、葉は細いが剣と言うには繊細すぎる気もした。
「って、ちゃんと知ってんじゃないか!」
「ん……まあね」
 彼女はちろりと舌を出す。
「ゴメンね。ただちょっと……聞いてみたかったのよ」
「環境委員適性でも試すつもりで、か?」
 からかわれたと思ったので、俺はわずかに棘を含ませて言った。もちろん本気で腹を立てているわけじゃない。
「そんなんじゃなくて……」
「じゃあ、どうして?」
「それがね……」
 そこで彼女は一旦言葉を切った。
 どういう加減か夕陽の赤が表情を隠す。俺はなぜかそれが嫌で手で光をさえぎり、目をこらした。
 見えない。
 輪郭はかろうじて、瞳も唇も見えるけれど表情が見えない。
 稷島はたぶん、小さく息を吐いた。
「それが好きな花、……だからかな?」
 ラジオのむこうの声が届くと、赤い光はまぶしさを失い傾いていった。陽が沈もうとしている。
「そういうのって、あるでしょ」
 笑っていた。
「……そうだな、結構あるな」
「でしょ?」
「ああ、わかるよ」
 俺も笑った。
 沈む寸前の夕焼けが俺たちの影を長く引き延ばしていた。秋の陽はつるべ落としと言うけれど、その時は少しゆっくりと落ちているように思えたのだった。

「なぁ、稷島はどこか悪いのか?」
 校門まで歩く道すがら、俺はそんなことを口にした。唐突な問いに稷島は頓狂な声を上げる。
「は? どして?」
「いやさ、最近欠席が多いみたいだから」
 陽はすっかり落ちてしまい、空には星明かりと月明かりがぼやっと灯っていた。
「そう? 前からこんなもんだと思うけど」
 頼りない明るさの中で稷島が首を傾げた。カールした細い毛先をいじりながら、思い返すように上の方を見ている。
 少し間を置いてから彼女は言った。
「……うん、こんなもんよ」
「え、そうなのか?」
「そうよ。大体こんなもん。……あー、恵庭くん」
「なに?」
「たぶんそれね、これまで単っ純に恵庭くんが気付いてなかっただけじゃない」
「む……、そういうことなのかな」
 どこか釈然としないものを感じつつも、気に掛けるようになったのは最近のことなので反論はできなかった。
 すると稷島は「あはは……」と乾いた笑い声を上げた。
「あたしはマジメからほど遠い人種なの。心配するだけム〜ダ」
 そうして、ステップを踏むような足取りで回り込むと、俺の顔を覗きこんでくる。
「予想通りって……感じ?」
 俺は苦笑を隠さなかった。
「そうでもない」
「ふうん?」
「どっちかって言うと意外」
 試すような彼女に俺は言った。
 なんというか稷島は、いい加減そうにしていてすることはしているというか、押さえるべきところは押さえてある……そんなタイプだと思っていたからだ。
 それを話すと「やだ、買被りすぎよ」とさらに笑われてしまった。一瞬、彼女が何歳も年上であるような錯覚を覚える。
 でももちろんそれは錯覚で、そこにいるのは俺が知っているとおりのクラスメートだった。
「あ、そうだ。恵庭くん」
 十字路にさしかかったところで、不意に稷島が足を止めた。がさごそと鞄の中をまさぐり、なにかを探しはじめる。
 やがて彼女が取り出したのは、無地の小さな紙袋だった。
「あげる」
 と、俺の方に差し出した。
「え? なんで?」
「んー、心配してくれたお礼……とか?」
 当惑する俺に、彼女はわざとらしく同じような顔をした。
「なんだそりゃ」
「あ、こら開けるなー」
 中身を探ってみようとしたその手を掴まれ、止められる。照れるところなのかもしれないが、高校に入って以来誰かさんのお陰で俺には耐性があった。
「くれるのに、ダメなのか?」
「だって、こういうのって……そういうものでしょ?」
 やんわりと手を押し返すと稷島は、今度は本当に困ったように笑った。
「わかったよ」
「ま、大したもんじゃないんだけどね。……昨日の昼間、街ぶらついててさ」
 唐突に稷島は話し始めた。
「ちょっと……イイ感じのお店があってね」
 ちなみに昨日は普通に学校のある日だ。
「……それで」
「それでね。つい、あたしには全っ然縁がないものを衝動買いしちゃった……というわけなの」
「お前そんなことしてたのか?」
 思わず突っ込むと、彼女はいたずらっぽく笑った。
「っていうか、そんな物押しつけるなよ」
「あー、それなら大丈夫。恵庭くんには縁のあるものだから」
「そうなのか?」
 中身は非常に軽い。かさばるものでもないと思ったので、結局礼を言って鞄の中にしまった。
 そうして分かれ道。俺たちは軽く挨拶を交わして、バス停の方と駅の方に別れる。
 ところが数歩進んだところで、
「武丸ー!」
 振り向くと夕陽に向かい合って、髪もスカートも紅く染めた稷島がこっちに手を振っていた。
 俺が「どうかしたか?」と訊くと、「呼んでみただけ、じゃね」と踵を返していった。
 なんだか癪だった。
 癪だったので、
「清花!」
 こっちから彼女の背中に呼びかけた。
 よほど意外だったのか、びくっと肩を震わせて稷島は立ち止まった。本当に驚いているその顔は、素直に可愛いと思った。
 同じでは芸がないので、さっきの紙袋を振ってみせる。
「これ、ありがとな」
「……うん」
 小さくて声は聞こえなかったけど、たぶん彼女はそう言ったんだと思う。
 そして今度こそ俺たちは別れ、振り返ることはしなかった。
 最後の一瞬、彼女が見せた笑顔。微妙に儚さを含んだ、女の子らしい笑みが印象的だったことを憶えている。

 翌日、稷島清花は学校に来なかった。

               * * *

 最初は不真面目っていうのは冗談じゃなかったのかと納得したりしていた。
 しかし、その次の日も彼女は登校せず、そのまま三日経っても休みを挟んで週が明けても学校に姿を現さなかった。
 こうなるとクラスの皆も気にしはじめる。
 病気や事故といった妥当な線はあっという間に淘汰され、カケオチしただの、人知れず自殺しただの勝手な憶測が飛び交っていた。
 あまりのゴシップぶりに、さすがに俺も眉をひそめた。
「不謹慎だけど仕方ないさ。みんな餓えてんだよ」
 中村は焼きそばパンを囓りながら憂鬱な溜め息をついた。
「そうだな……」
 同意はしたが心の中では反発を感じていた。多少なりとも付き合いのあった人間が、貶められるのはいい気はしない。
 しかし俺は、彼女のことをろくに知らないのだ。
 その間も時間は確実に削られていった。

 事実が告げられたのは、きっちり一週間後のことだった。
 まだ若い木下先生は、必死に動揺を抑えているようにその事実を告げた。
「稷島清花さんが亡くなったそうです」
 その言葉にクラスは凍りついた。
 しんと水を落としたように静まりかえり、次に声にならないどよめきが拡がっていった。
 噂の中に「死」も含まれていたというのに、皆一様に青い顔をしていた。泣いている女の子もいた。
 ただそれは、彼女を悼んで泣いているわけではないのだろう。
 もちろん悪いとは言わない。
 実際、そんなもんだろう。
 けれど俺はそんな中では絶対泣いてやるものかと思った。心の中がざわついて、いてもたってもいられない気持ちになったが全部押し隠した。

 翌日、稷島の席には一輪挿しがぽつんと置かれた。
 先生サイドは「親御さんからの強い希望で、あまり騒がないで欲しいと」の言葉を盾にして沈黙していた。
 そのせいか、クラスメートたちもそれまでの態度が嘘のように話題から外し、ややもせず「過去」として流されていった。
 ……受験本番はもうすぐなのだ。それが当然だろう、と俺は湧き起こった反発心を封じ込めた。
 寒々しい白い菊だけが、主のいない席にいた。
 それでも時間は過ぎていった。

 ──放課後。
 俺は誰もいない教室に一人でいた。温室での仕事を済ませて鞄を取りに来たのだ。
 週末を控えた教室は閑散としている。
 当番を代わると申し出た俺を、その二年生は物好きを見る目をしたが嬉々として応じてくれた。
 鞄を持参しなかったので、わざわざ教室に戻る必要があったのだ。
 そういう理由でそこにいた。
 夕焼けはいまにも沈みそうなほど傾いていた。
 暮れる瞬間の赤はまぶしく強烈で、教室のすべてが一色に包まれている。机も椅子も、床も教壇も、黒板も、稷島清花の席に飾られた白い菊も、血のような赤で染め上げられていた。
「…………」
 教室の扉は閉め切ってある。
 俺は無言で彼女の席まで行くと、一輪挿しから白い菊を引き抜いて温室から取ってきた花を生けた。
 どうせ花を飾るなら、こっちの方がいい。
 そう思った。
 細い葉を持つ黄色い花は、紅い光の中でも黄色かった。
 しかしその花はグラジオラスではない。

『グラジオラスの花期は春から夏。特に秋に植えて春に咲くものを早咲きと言って区別する』

 図書館の本にははっきりとそう書いてあった。
 いまは秋、それも冬になろうとしている。
 おまけに花の形も違った。せいぜい似ていないこともない程度の差だった。その程度……。
 その本には花言葉まで書いてあった。
 用心深い、たゆまぬ努力、楽しい思い出……それがグラジオラスの花言葉。
 稷島がちゃんとこの花のことを知っていたのか、いまはもう確かめることはできない。
 彼女が俺に何を伝えようとしたのか、そもそも伝える気があったのかも同じく……。
 わからない。
 わかりようがない。
 ただ、俺は自分にできる形で──たぶん友達として彼女がここにいたことを証明したかったのかもしれない。
「清花……」
 一度だけふざけて呼んだファーストネーム。それを口にしていた。
 いまさらだけど、彼女は名字ではなくそう名前で呼ばれることを好んでいたような気がするから。
「…………」
 あの日、読まされた詩を読んでやろうかと思ったが、すぐに思い直して止める。
 それを聞く相手はもういないのだ。
 けれど、彼女はそこにいたのだ。
 俺は一つだけ開いていた窓の外を見た。
 世界を染める夕焼けはいまにも消えてしまいそうで、空の端は暗い蒼をしていた。
 その境界の景色に、ずっと握り締めていた菊の花を無造作に放り投げた。
 窓をくぐり抜けた白い花弁は、最後の夕焼けを照り返しながらくるくると落ちていく。
 それを最後まで見ないで踵を返し──
 もう、振り返らなかった。

               * * *

「あれ、おにーちゃんそんなの持ってたっけ?」
 久しぶりの音研の部室。ギターの弦に手を掛けたところで、みまなが言った。その視線は俺の手元、白いピックに注がれている。
「ん? ああ、少し前から使ってるんだ」
 ピックをつまみ上げ、みまなの目の高さで裏表と返して見せる。それはほの明るい室内で白い光沢をたたえていた。
「……音色?」
 表面に刻印された》oneという英字を読んだのだろう。ちなみに反対にはなぜか五紡星が刻まれている。
「心境の変化とか、なの?」
 興味深そうにしていたみまなだったが、満足したのか顔を上げてそう言った。
「……まぁ、そういうのってあるだろ?」
 笑いかける。
「ん……そうかも」
「だろ?」
「うん」
 そうして、みまなも笑った。日に日に厳しくなる寒さとはとっくに縁切りしたような、明るくあたたかい笑顔だった。

 ところで、このピックの下の方──俺の指で隠れていたところには小さく名前が刻んである。
 それはこれを寄越した奴の仕業だ。
 手彫りで、あんまり綺麗とは言えないが、それは別にどうでもいいことだ。使うのに支障があるわけで無し。
 時間が経てばきっと馴染むだろう。
 それに、たぶんそういうのが「楽しい思い出」になるんだと、俺はなんとなく思っている。
 ベースを繋ぎ終えたらしいみまなに合図をして、俺はそっとギターを構えた。
 その間際、窓から見えた空はどこまでも青く、澄んでいた。



  ※作中の詩は萩原朔太郎『蝿の唱歌』を引用しました。

《了》





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